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進行性網膜萎縮(PRA)

  • animaleyeclinic
  • 2017年3月21日
  • 読了時間: 5分

要約

  • 純血犬の失明の原因となる遺伝性網膜疾患に分類される。

  • 知らぬ間に進行する病気で、末期になって発見されることがある。

  • 現時点で確立された治療法はない。

  • 痛みを伴う病気ではなく、失明後も環境に順応できる子が多い。

  • 一部の犬種では遺伝子検査が行える。

まずは網膜の基礎的機能についてです。

①網膜って何をしているの?

網膜は目の後部にある高度に特殊化した神経の膜です。例えるならばカメラのフィルム、光が当たると像を浮かび上がらせます。網膜の機能が正常でなければ、犬は像を作れない。つまり見ることができません。網膜は光の入り口として脳での像の形成に大きな役割を担っています。

②網膜の2種類の細胞について

目に入ってきた光が網膜に到達すると、一連の化学反応が生じ電気信号が発生します。つまり光エネルギーを化学エネルギーに変換します。それを行う網膜の細胞はRodとConeとよばれ、Rodは夜間視力、動体視力、Coneは色覚、昼間視力、輪郭の鮮鋭度を担っています。したがってRodの分布が多いペット(イヌ、ネコなど)は夜間視力、動体視力が発達しているがConeの分布が少ないイヌは人に比べて色覚は乏しくなっている。PRAではRodとConeの両方が侵されるが最初にRodが障害を受けていく為、初期症状としては段階的な夜間視力の消失が観察される。

それでは病気についてです。

進行性網膜萎縮症はその病名通り、網膜の萎縮と変性がゆっくりと進行する疾患です。どうぶつは初期症状(視力喪失による行動異常)を示さない事が多い。なぜなら、視力がゆっくりと喪失していく過程は室内灯を少しずつ落としていくのに似ており、長い期間をかけて少しずつ暗くなると、自分達の目はその暗さの変化に気がつかなくなる。同様な変化がPRAの動物で生じ、相当暗くなるまで(網膜の状態が進行)視覚異常を発現しない。その為、行動異常が見られた時には末期状態になっている。

1. 臨床症状

初期症状は夜盲。徐々に昼間の視力も失われていく。瞳孔は散大し、その頃には光への反応も弱まっているでしょう。飼い主様は目が特徴的に光り輝いている事に気がつきます。それはタペタムと言う輝板(車のヘッドライトが当たると光って見える部分)からの反射が亢進しているためで病気のサインのひとつです。夜盲は行動の変化で見つかります。例えば、暗闇に出て行くことを嫌がったり、暗い部屋に入っていくことを嫌がる。家の電気を消した後に家の中で迷子になる子もいるでしょう。既にお伝えしましたように、視覚異常は慣れた環境では末期になるまで気づかれないことがあります。それは臭覚や聴覚による補償作用、またはゆっくりとした視覚の消失に適応してしまう事が理由として考えられています。環境が変わった時に行動異常が発見されるのはその為です。代表的な例は①家具配置の変化②知らないところに連れ出された時③長期休暇の時にペットホテルに預けられた時など。このようにPRAは日常の環境では早期発見しにくい病気ですので定期的な全頭検査が必要でしょう。少なくとも繁殖を考えているどうぶつでは重要です。 この病気の難解な点として、犬種毎に特徴があることがあげられます。通常、眼科医が行う網膜の検査では、網膜の血管パターン、視神経、タペタムの変化が見られます。しかしながら、その変化と視覚異常がすべての犬種で同じだとは限りません。ある犬種では特徴的病変であっても視覚異常がでない、視覚消失するまで網膜が正常にみえる犬種もいます。ところでPRAの続発症状として白内障が観察されることがあります。一般的には末期症状のときにみられる為、失明の原因が白内障と診断されてしまう事がある。白内障によって網膜を直接観察することが困難になることが食い違いの原因のひとつですが、仮に白内障が見つかっても、この場合は白内障手術の適応とはなりません。手術をしたとしても視覚が改善されない為です。レンズを透明にしてあげても、網膜自体が弱まっていれば視力は改善できません。どんなに高価なレンズに付け替えても、フィルムが入っていなければ写らないのと同じです。しかしながら白内障は、眼内炎の原因となり手術をしないとしても治療が必要となります。

2. 網膜電図検査

確定診断は網膜電図検査で行います。この検査では網膜の電気的機能を評価します。

心臓の評価に用いられる心電計検査、心電図の解析をイメージしていただくと分かりやすいと思います。この検査の感度は十分高いため、臨床症状が発現する前に病気を見つけだせます。

3. 遺伝子検査

PRAは遺伝性疾患であるので、問題の遺伝子を特定、もしくは調査することが可能となる。検査は進化発達してきているが、すべての犬種で応用可能にまでは至っていない。まだまだ一部の犬種のみで行える検査。この検査では口腔粘膜を採取し検査することで問題の遺伝子を保有している犬や罹患している犬を識別できる。遺伝子検査の情報は www.gtg.ne.jpで入手できます。また遺伝様式は犬種毎で異なっている。また犬種毎に発症年齢、進行具合、合併症も違っている。

4. 治療

PRAの治療法は確定されていない。ビタミン剤による治療が提案されていますが、治療効果に関する科学的根拠は現時点でございません。罹患動物は出来る限り早期に発見し、繁殖群から取り除くことが大切です。また PRAは痛みを伴わない疾患で、失明した子は通常時間とともに環境によく適応する(記憶や他の感覚を活用し視覚喪失を穴埋めする)。環境を変えないことが大切ですので頻繁な部屋の模様替えは避けるべきでしょう。また、散歩などで外出する時はハーネスなども用いればどうぶつも安心です。

最後に

PRAは純血犬の失明の原因となる遺伝性網膜疾患に分類されます。知らぬ間に進行する病気であるため、好発犬種、遅発型の子では連続的な眼科検査が必要です。また罹患した動物は繁殖には適しおておりません。

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